はじめに
わが国の大腸がん死亡数は近年増加しており、女性では悪性新生物による死亡の中で第1位、男性では肺がん、胃がんに次いで第3位となっています。
大腸がんは初期には自覚症状がほとんどありません。大腸がんは早期に発見されれば治癒できる可能性の高いがんの一つです。それゆえ、定期的に検診を行い、自覚症状がないうち早期発見することが重要です。
当院では、大腸がんが心配で来院された患者さんに対して、速やかに大腸内視鏡検査を行い、診断を行う体制を整えています。
2014年は125人の患者さんが当院で大腸がんと診断されました。
診断
大腸内視鏡検査で大腸にできもの(腫瘍)が見つかった場合、一部を採取して顕微鏡の検査(組織学的検査)を行います。組織学的にがんの診断がつくと、大腸がんの確定診断となります。
がんの診断がついたら、CTスキャンなどの画像検査で病気の拡がりの程度を評価します。それによって、以下のステージに分かれます。
ステージ0:粘膜内癌。
ステージ1:遠隔転移やリンパ節転移がなく、腫瘍の深さが筋層までのもの。
ステージ2:遠隔転移やリンパ節転移がなく、腫瘍の深さが筋層を超えるもの。
ステージ3:遠隔転移はないが、リンパ節転移を認めるもの。
ステージ4:遠隔転移を認めるもの。
内視鏡治療
内視鏡治療はリンパ節への転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除できる大きさと場所にある場合に適応になります。
また、見た目は良性の大腸ポリープであっても、内視鏡的切除後の組織診断で早期大腸がんであったというケースもしばしばあります。
治療法には内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection;EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)があります。
EMRは、粘膜下層に生理食塩水などを局注して病巣を挙上し、病巣茎部を絞扼して電流によって焼灼切除する方法です。主に外来あるいは短期入院で行います。
ESDは、粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液などを局注して病巣を挙上し、専用のナイフで病変周囲を切開し、粘膜下層を剥離して腫瘍を一括切除する手技です。主にEMRでは一括切除できないような大きな早期がんが適応となり、入院、全身麻酔下での治療を基本としております。
2014年には、当院で36件のEMR、2件のESDが行われました。
手術
大腸の進行がん、内視鏡的治療の適応とならないような早期がんに対しては、腸切除の適応となります。病変を含む腸管を、周囲のリンパ節とともに切除します。
当院では腹腔鏡手術を積極的に取り入れています。腹腔鏡手術とは、お腹に小さな穴を開けてカメラを挿入し、モニターにお腹の中を映して手術を進めるものであり、開腹手術と比較して傷が小さいため術後の痛みが少なく、また身体への負担が少なく回復が早いのが特徴です。当院では患者さんの痛みや身体への負担を最小限としつつ、根治度の高い手術を目指しています。ただし、癒着などのために視野展開が難しい場合、安全性を優先して開腹手術に切り替えることがあります。
腹腔鏡手術の適応とならない局所進行がんに対しては、開腹による拡大手術を行っています。
2014年には、当院で40件の腹腔鏡手術、36件の開腹手術が行われました。
化学療法
化学療法には大まかにわけて以下の二つがあります。
1) 補助化学療法
根治切除が行われた大腸がんの術後の再発・転移を抑える目的の治療です。現在本邦の治療ガイドラインではステージ3の大腸がんでの術後補助化学療法が推奨されているほか、欧米のガイドラインではステージ3未満の大腸がんであっても再発の高リスクと判断されるケースでは補助化学療法が奨められています。
2) 切除不能進行再発大腸がんに対する全身化学療法
治癒切除の難しい大腸がんに対しての標準治療です。古典的な抗悪性腫瘍剤加えて、近年登場した分子標的治療薬を積極的に用いることが奨められています。
当院では主に以下の薬剤を使用しております。
1) 経口薬
- S-1
- UFT(+LV)
- Capecitabine
- Regorafenib
- TAS-102
1) 注射薬
- 5-FU
- Irinotecan
- l-LV
- Oxaliplatin
- Mitomycin C
- Bevacizumab
- Cetuximab
- Panitumumab
通常、これらの薬剤を単剤での、もしくは複数の薬剤を組み合わせた治療を行います。
患者さんの生活背景や希望を踏まえ、最適と思われる治療法を患者さんに提供いたします。
2014年には、52人の患者さん、延べ464件の大腸がんの化学療法が当院で行われました。
放射線療法
放射線療法には、直腸がん術後の再発を抑えたり、術前に腫瘍の量を減らしたりといった目的で行われる補助放射線療法と、切除不能進行再発大腸がんの症状緩和や延命を目的とした緩和的放射線療法があります。緩和的放射線療法には、骨盤内腫瘍による疼痛、出血、便通障害などの症状緩和のほか、骨盤外病変として骨転移に伴う疼痛の軽減や、骨折や脊髄麻痺の予防と治療を目的とするものがあります。
2014年には、当院で13人の患者さんが大腸がんに対して放射線治療を受けています。
緩和療法
腸がんにかかってしまったことでつらい思いをされている方、がんの治療を受けることでいろいろな心配事がある方には早期から相談にのります。大腸がんの進行に伴い、疼痛や食欲不振、嘔気、嘔吐、腹水貯留に伴う腹部膨満などの症状が出てくることがあります。がんによる疼痛をがん性疼痛と呼び、生活の質を大きく損なうこととなります。疼痛対策としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から医療用麻薬など強オピオイドを使用することがあります。また、上記のとおり骨盤内再発巣や骨転移に伴う症状に対して、緩和治療としての放射線治療を行うことがあります。
立川病院ではあらゆる医療用麻薬が使用可能です。必要な方は緩和ケアチームや地域連携室を利用することができます。
参考文献)大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版 大腸癌研究会編 金原出版