遺伝子診療
がんゲノム医療とがん医療における遺伝学的検査
がん治療において、「遺伝子治療」という言葉を聞いたことのある患者様も多いのではないでしょうか。新しい画期的な治療のように聞こえますし、「遺伝子治療」を宣伝しているクリニックも多数あります。しかし、患者様やがん細胞の遺伝子そのものを治療する方法はまだ研究段階であり、効果が証明されている治療はありません。
がん治療において、「遺伝子治療」という言葉を聞いたことのある患者様も多いのではないでしょうか。新しい画期的な治療のように聞こえますし、「遺伝子治療」を宣伝しているクリニックも多数あります。しかし、患者様やがん細胞の遺伝子そのものを治療する方法はまだ研究段階であり、効果が証明されている治療はありません。
現在行われている遺伝子に関連する治療としては、①がんゲノム医療と②遺伝学的検査があり、どちらも遺伝子を調べることで有効な治療を検討するという、個別化医療の一つになります。
当院で行うことができない検査や治療については、近隣の「がんゲノム医療中核拠点病院」や「がんゲノム医療連携病院」をご紹介しています。どちらも対象となる患者様は限られますので、興味がある場合には、主治医にご相談ください。
①がんゲノム医療(がん遺伝子パネル検査)とは
ゲノムとは、遺伝子をはじめとした遺伝情報全体のことを意味します。現在保険診療で行われているがんゲノム治療は、「がん遺伝子パネル検査」です。手術などで切除したがんの組織を用いて、現在わかっている遺伝子変異をすべて調べます。その結果、何らかの遺伝子変異が見つかり、他の領域の抗がん剤で有効と思われる薬剤があれば、その薬剤での治療を行います。(例えば、大腸がん患者様に、肺がんの抗がん剤を投与します)。そのため、治療しているがんに対する標準的な抗がん剤治療を一通り終了し、効果が期待できる抗がん剤が残っていないけれども、まだ抗がん剤治療を続ける体力が残っている患者様が対象です。
がん遺伝子パネル検査で、遺伝子変異が見つかる患者様は約50%、実際に治療につながる可能性は10%程度です。また、検査に用いるがん組織の量が足りない場合、採取した時期によっては、検査ができない可能性があります。保険適応とならない患者様でも、自費診療で高額にはなりますが、検査を受けることができる場合もありますので、興味のある方は主治医にご相談ください。
「がん遺伝子パネル検査」を受けるには
当院では検査を行っていないため、専門施設へご紹介いたします。検査の結果、効果が期待できる薬物療法が見つかった場合には、当院でその治療を行うことができます(一部の薬剤や治験薬は当院では投与できないことがあります)。
- 連携医療機関:慶應義塾大学病院 腫瘍センター ゲノム医療ユニット
- 今までの詳しい治療経過を記載した診療情報提供書を持って、セカンドオピニオンとして受診していただきます。検査の適応と判断された場合には、当院からがん組織を送付して検査を行います。
※連携医療機関以外の専門施設での検査をご希望の場合にはご相談ください。
②遺伝学的検査とは
がん治療に用いる薬剤の中には、特定の遺伝子変異の有無により効果が予測できる薬剤があります。特定の薬剤の効果予測のために行う遺伝学的検査をコンパニオン診断といいます。遺伝子変異によっては、ご家族に遺伝するものもありますので、検査を受ける場合には十分な理解が必要です。
例えば、膵癌と診断された場合、BRCA遺伝子検査を行います。陽性になる人は8%程度ですが、陽性の場合にはプラチナ製剤という抗癌剤が効きやすいことがわかっており、さらに陽性の場合のみPARP阻害薬という薬剤を投与することができます。しかし一方で、BRCA遺伝子は50%の確率で子供に遺伝することもわかっています。BRCA陽性の場合には、高率に乳癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌を発症するため、女性の場合には予防的な乳房や卵巣の切除が検討されます。
つまり遺伝学的検査は、ご本人のがん治療においては、より効果的な薬剤治療に有用ですが、遺伝子変異の結果によってはご家族にも影響する可能性があるため、ご家族と相談した上で検査を受ける必要があります。検査前に、遺伝子カウンセラーによるカウンセリングを受けることも可能です。