血尿と病気
①血尿には大きく分けて顕微鏡的血尿、肉眼的血尿があります。顕微鏡的血尿は検査ではじめてわかるレベルのもので、よく検診などで「尿潜血陽性」と呼ばれ、ほぼ同じ意味です。病気が背景にあるものよりも、原因を(その時点で)特定できないものの方が多く、日常の外来診療では経過観察指示される事がほとんどです。それでも中には病気が見つかる場合もあります。肉眼的血尿とは、目で見てわかる血尿で、多くの場合に病気が存在します。
②肉眼的血尿を生じる病気の中で一番多いのは尿路感染症、尿路結石で、悪性腫瘍はむしろ少数派です。ただし、見逃してはいけない病気ですから、通常は肉眼的血尿があったら原因を詳細に調べることが必要といえます。鑑別しやすい点は痛み、排尿時痛、頻尿など症状を伴わない血尿は悪性腫瘍ではむしろ多いことで、特に「無症候性血尿」または「無痛性血尿」と呼んで区別します。このような血尿であれば医療機関を受診し、原因を検査すべきです。
③尿路系の癌ではかなり進行しないと血尿以外の症状は出ません。特に腎盂尿管癌では実際に検査でやっと診断のつくことが多い現状です。
④タンパク尿は多くの場合、腎臓の異常です。糸球体腎炎、糖尿病性腎症や、全身性疾患の異常の一つとして生じることもあります。糸球体腎炎では浮腫、高血圧など、他の症状を伴うこともありますが、慢性的に進行し症状が出にくいこと、気づきにくいこともあります。
- 膀胱炎の尿所見でタンパクの反応が強いと言われた時は、腎炎などの病気も考える必要がありますか?
- 答え:膿尿(炎症で白血球が尿に多くでる場合のこと)では尿タンパクの反応が出てしまうことが多いので、通常は膀胱炎が治った状態で、再度タンパクの評価をする必要があります。
- 年中膀胱炎を起こしているので、血尿がいつも出ているという方の場合は?
- 答え:病態にもよります。たとえば若い女性でも膀胱炎を起こしやすい人はいますが、元気な人でおこる膀胱炎は「急性単純性膀胱炎」です。それに対して、基礎に病気があって、感染を起こしやすい条件があり、細菌の感染が長引いたり繰り返したりする場合を「複雑性膀胱炎」と呼びます。泌尿器科医は膀胱炎が治りにくい人を見た場合には、これを疑い、必要に応じて検査を行います。もとになる病気というのは癌だけではなく、結石、膀胱機能障害、前立腺肥大症などの排尿障害、カテーテルなど人工物、婦人科疾患など、様々です。
腎盂・尿管癌の診断
(病気を疑った場合の診断手順について説明します。)
①尿路系の悪性疾患を疑う場合には、簡単な検査、体に負担の少ない検査から行っていきます。例えば血尿の原因がはっきり分からない場合、尿の二次的な検査、超音波断層撮影(いわゆるエコー検査)や排泄性尿路造影(IVP,DIPなど)、CTなどで評価します。
②腎盂・尿管腫瘍を疑うときには、同時に膀胱にも腫瘍があるかを検索します。それらが合併する可能性が高いためです。具体的には画像検査で膀胱内を調べることと、膀胱尿道鏡検査などを行います。ただし、膀胱尿道検査は侵襲的なので、麻酔をかけて行う腎盂尿管の画像・内視鏡検査時に同時に行うこともあります。
- 他の癌では血液で調べる腫瘍マーカーというのがありますが、尿路系ではそのようなものはあるのですか?
- 答え:一般的な血液中の癌マーカーが陽性になる場合はありますが、進行した状態でないと異常がでず、残念ながら血液で早期発見のためという便利なものはまだないといった方がよいでしょう (CEA, CA19-9、CA125など)。尿を調べる検査ではいくつか開発されていて、すでに日本でも広く使われています(尿中NMP22、BTAなど)。血液のマーカーでも病状を反映して増減する場合には、治療効果の判定などに役立ちます。尿の中にはがれてくる成分を調べる細胞診という検査がありますが、尿中マーカーはそれに匹敵する検査的な価値があります。ただし尿路感染が合併するなど、条件が悪いと正しく判別ができません。
③最近では泌尿器科以外の科で尿細胞診や、尿中マーカーを調べて異常があるために精密検査を依頼されて泌尿器科を受診する患者さんもいらっしゃいます。そのような場合も検査の手順はだいたい同じです。また、どこかに病変があることを特定されている場合にも、尿路上皮癌は多発する可能性があるため、検査手順はやはり同様です。腎盂尿管癌の特徴的な画像所見は水腎症、尿路通過障害を腫瘤の存在です。また、最近の画像診断の発達は目覚ましいため、腎盂・尿管の壁肥厚像から癌の局在診断がつく場合もあります。
④癌の診断では、局在診断と同時に転移の検索を行って病気の進行状況を調べることがあります。具体的には肺や、胸部のリンパ節、骨の検査のために胸部X線撮影、胸部CT、骨シンチグラフィーなどを行う場合があります。
腎盂・尿管癌の内視鏡的検査・治療
①外からできる画像診断で異常が疑われたら、診断確定までの検査がさらに必要です。例えば腎盂(腎臓の中で尿の集まってできる通り道の一部)に異常があることが分かれば細胞、組織でどのような異常なのかを調べる検査を行います。直接異常のある場所に到達して検体をとる方法がありますが、侵襲的検査であるため、通常は尿道から膀胱鏡を入れてカテーテルを到達させて細胞をとるか、直接入る内視鏡(腎盂尿管鏡)で見ながら組織を採取します。
②細菌性炎症、尿路結石その他の異常が腫瘍と合併することがあります。一般的には尿路上皮の慢性炎症が発がんに関与することも示唆されていますので、症状のない結石がずっとあったという場合、癌の存在も念頭に入れて検査します。しかし、画像診断では炎症と腫瘍を鑑別することは不可能なことが多いです。この理由から、細胞・組織の検査を併用する必要があるのです。
③国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターが運営する、がんに関する情報を提供するサービス、「がん情報サービス」が、インターネットで用意されています。腎盂尿管がんについても病期分類など情報がわかりやすく用意されています(https://ganjoho.jp/public/cancer/renal_pelvis/pdf/renal_pelvis.pdf)。
- 尿管はどのくらいの太さですか?細いところに内視鏡を入れることは難しいように思いますが。
- 尿管は筋肉でできた組織で、ある程度伸縮しますが、実際に入れる内視鏡の太さはだいたい直径3mmくらいのものです。また、カテーテルを入れるだけなら直径1-2mmのものを使ったりします。尿管は細く、長いため実際には安全にカテーテルを入れることは難しいこともあり、組織診断は不可能なこともあります。ですので、画像診断、細胞診断など、総合的な評価が必要になります。
- 尿路にできる腫瘍は膀胱ではポリープ状に見えることが多いと言われますが、腎盂・尿管癌でも同じですか?
- はい。典型的な低悪性度の尿路上皮癌は、乳頭状発育といって、ブドウの房のような、もしくは海草が生えているような外観で増殖し、粘膜に生えている部分が茎のようになっています(有茎性腫瘍と呼びます)。一方、増殖しやすい、転移しやすい癌の場合には結節性発育といって、塊のような、正常部分と境界のはっきりしない増殖形態をとります。ただし、尿路上皮腫瘍は、悪性度が均一でないことが多く、良・悪性の鑑別は必ずしも容易ではありません。たとえば、摘出してみたら乳頭状増殖の中に一部結節性増殖があり、対悪性度の中に高悪性度病変が混在している、といったようなことが多くあります。さらに摘出されるものの大半は低悪性度であっても再発しやすいなどの問題があります。
腎盂・尿管癌の手術・その他の治療
①腎盂・尿管のどこに病変があっても、現在最も広く行われる上部尿路腫瘍に対する治療は腎尿管全摘除術が原則です。下部尿管に病変がある場合には尿管部分切除も行われることがあります。しかし、実際には再発、転移の確率が高く、しかも再発が見つかりにくくて次の治療が遅れやすいとされています。
②手術に際しては通常の切開手術、腹腔鏡手術などが採用されています。腎盂尿管全摘除術とは、上腹部にある腎臓、下腹部までつながる尿管、膀胱の一部をまとめてとる手術なので、腹部の広い範囲で手術が必要となります。また、リンパ節を一緒に摘出するリンパ節郭清という手術手技をとる場合では腎臓周囲、骨盤内などかなり広い範囲の手術になります。
③ 腫瘍の状態とリンパ節転移の有無の関係
自験例40名の手術の後に調べた腫瘍の進展(T因子)とリンパ節転移の有無の相関です。腎盂や尿管の粘膜、粘膜下層に収まっていて筋層に入っていないpT1ではリンパ節転移が 0% であったものに比べ、筋層浸潤を伴うpT2では20%、筋層を超えるpT3では55% にリンパ節転移が手術の時点で見つかっています。他の臓器にまで達する腫瘍の大きさでは100%のリンパ節転移がありました。
pN- | pN+ (%) | total | ||
---|---|---|---|---|
pT1以下 | 筋層に至らない | 13 | 0(0%) | 13 |
pT2 | 筋層浸潤 | 8 | 2(20%) | 10 |
pT3 | 筋層を超える | 5 | 6(55%) | 11 |
pT4 | 筋層浸潤 | 0 | 6(100%) | 6 |
total | 26 | 14 | 40 |
- 腎臓の中にできる腎盂癌ならば、腎臓全部をとる必要のあることは理解できますが、尿管ならばそこだけ切ってつなぐ手術でもいいのでは?
- はい。条件によってはそのような方法もとります。しかしその場合には再発率が高いことが欠点です。また、手術操作によって尿の流れが悪くなったりしますので、その後の再発を画像検査などで見つけることが難しくなることから、再発した後の治療が遅れるリスクがあります。実際には腎機能や予測される癌の悪性度などで判断します。現状では病期診断や予後を事前予測困難であることから、腎尿管全摘除をおすすめすることが多いです。
- 膀胱に病変がなくても、膀胱の部分切除も併せて行うのですか?
- 尿路上皮癌は特に尿路粘膜の別の部分に再発しやすいという性質があります。例えば、腎盂・尿管の腫瘍を摘出しても、尿の流れ道としての下流となる膀胱に30から70%くらいの確率で再発することが知られています。したがって、腎尿管全摘除術の際には、膀胱に尿管が入るところを含めて摘出するのが標準手術となっています。
- もし膀胱癌が腎盂・尿管癌と同時に見つかったときはどうするのですか?
- 腎盂・尿管癌と併存する膀胱癌は頻度的には表在性膀胱癌といって、尿道から入れる内視鏡手術で切除可能なものが多いので、その場合には腎盂・尿管癌の治療に先立って膀胱の内視鏡手術を行うことが可能です。もし膀胱癌もたちの悪いもの(浸潤癌)でしたら膀胱を一緒に摘出することをも考えなければなりません。
- 手術以外の方法はありますか?
- 進行した病変に対しては全身化学療法、放射線療法など。表在性低悪性度病変に対しては内視鏡的な切除(尿管鏡下レーザー切除など)の有効性が報告されています。
- 実際の治療成績は?
- 一般的に、腎盂・尿管がんの予後は不良といわれていますが、表在がんであった場合の予後は良好で5年生存率は90~100%程度です。浸潤がんであった場合の予後は、前述したような理由から、膀胱がんより明らかに不良で、各種治療法にもかかわらず5年生存率で10~40%です。転移がある浸潤性腎盂・尿管がんの場合、2年生存率で10%以下と極めて不良です。