立川病院

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前立腺とは

前立腺は男性の泌尿生殖器臓器で、膀胱の出口部から尿道を取り囲むように存在します。役割は精液の成分である前立腺液を産生します。ふつうの大きさはクルミ大(約15~20g程度)と表現されます。前立腺の病気には前立腺がん(前立腺癌)のほかに、前立腺肥大症や前立腺炎などの良性疾患もあります。
前立腺肥大症はその名のとおり前立腺が大きく肥大している状態ですが、がんではありません。しかし、尿が出しづらいなどの男性排尿障害を引き起こします。
前立腺炎は前立腺の炎症ですが、細菌感染による急性前立腺炎と、原因のはっきりしない慢性前立腺炎があります。症状としては排尿時痛や発熱などを引き起こします。
立川病院では前立腺がんのほかに、前立腺肥大症や前立腺炎の診療もおこなっています。

前立腺がんとは

前立腺の悪性腫瘍を前立腺がんといいます。前立腺組織ががん化し増殖することで進行します。通常、前立腺がんには年単位のゆるやかな進行をたどるタイプが多いですが、一部には数ヶ月のうちに進行するタイプのものもあります。前立腺肥大症や前立腺炎との関係性は明らかではなく、それぞれが併存することもあります。日本では前立腺がんにかかる男性が増加傾向にあり、男性がん患者のなかで罹患率が1位となっています。明らかな発生危険因子はわかっていませんが、近親者に前立腺がんの方がいると(家族歴があると)発症率が高まるといわれています。

前立腺がんの症状

最近発見される多くの方の前立腺がんは局所的であり、無症状です。前立腺肥大症や前立腺炎で受診された方に、たまたま前立腺がんがみつかることもあります。
しかし、前立腺がんがすすんでまわりに広がってくると症状がでることもあります。周辺臓器までひろがることをがんの浸潤といいますが、血尿や頻尿の原因になることがあります。また、血液やリンパの流れにのってがん細胞が離れた臓器へひろがることをがんの転移といいますが、転移先によって腰痛や足のむくみなど様々な症状をひきおこすことがあります。

前立腺がんの検査

前立腺がん診断のためには、まず血液検査でPSA濃度を測ります。その他には、直腸診(digital rectal examination; DRE)や、前立腺MRI検査があって、最終的には前立腺針生検による病理組織診断が必要です。
前立腺癌治療のためには、CT検査、骨シンチ(骨シンチグラフィ)による病期診断が必要です。
立川病院では上記すべての検査を行うことが可能です。

PSAとは

前立腺から分泌される物質のひとつです。前立腺特異抗原(Prostatic Specific Antigen)の頭文字をとってPSAといいます。正常な前立腺組織でも分泌されるものですが、前立腺がん組織ではPSA生産量が増加するということから、前立腺がん腫瘍マーカーとして利用されています。基準値として一般的に言われているのは、4.0 ng/ml以下です。しかしPSAは年齢とともに自然増加する傾向であるため、日本泌尿器科学会(JUA)の「前立腺がん検診ガイドライン2018年増補版」では基準値を年齢で区切っています。64歳以下では0.0~3.0ng/mL、65~69歳では0.0~3.5ng/mL、70歳以上では0.0~4.0ng/mLとなっています。
ただしPSAが基準値を超えているからといってがんとは限りません。PSA値が上昇する疾患には前立腺がんだけではなく、前立腺炎や前立腺肥大症などもあるからです。もっともPSA値が基準を超えて高いほど前立腺がんがある可能性も高まります。統計的にがんである確率は、PSA 4~10 ng/ml で20~30%, PSA 10 ng/ml以上で50%程度といわれています。
常用されているお薬によってはPSA値が本来よりも低くでてしまうものもあります。処方薬ではアボルブ®、ザガーロ®(デュタステリド)、プロスタール®(クロルマジノン)、プロペシア®(フィナステリド)で、サプリメントではノコギリヤシにPSAを下げる作用があるため、受診時にお申し出ください。
立川病院では、PSA検査ができます。必要な方にはPSAを前立腺容積で割り算したPSA density(PSAD)やF/T比(free/total比)検査も行うこともできます。

前立腺MRIの有効性

MRI(磁気共鳴画像装置)で前立腺を撮影することにより、前立腺がんの存在や、前立腺がんが被膜外浸潤や精嚢浸潤をおこしている場合にはわかることがあります。とくにMRI拡散強調画像(DWI)では診断能力が高いと言われています。
立川病院では、1.5テスラMRI拡散強調画像(DWI)で検査ができます。

前立腺針生検について

PSA検査やMRI検査でも前立腺がんが疑われる場合でも、診断は確定していません。前立腺がん確定診断のために前立腺針生検が必要となります。前立腺に生検針を刺し、小さなサンプル組織を採取することで病理組織検査が可能となります。病理組織検査で前立腺がんの診断と、悪性度(Gleason score)が判明します。
前立腺針生検の合併症として、血尿、血便、排尿困難、細菌感染による発熱(急性前立腺炎)などがあります。そのほとんどが重篤な合併症ではありませんが、まれに急性前立腺炎は敗血症となり集中治療が必要となることがあります。
前立腺針生検はあくまで組織サンプルを採取する検査ですので、がんの診断をすることができても、小さながんを完全に否定することはできません。
立川病院では経直腸的超音波ガイド下針生検を、一泊二日入院のクリニカルパスで検査を行っています。生検には18G針を使用し、12か所生検を基本としています。麻酔は局所麻酔薬である2%キシロカイン®(リドカイン)を用いた前立腺周囲神経ブロックのみで、当日夕飯から食事は可能です。発熱予防のために抗生剤であるクラビット®(レボフロキサシン)を予防内服します。
抗血小板薬であるバイアスピリン®(バイアスピリン)、パナルジン®(チクロピジン)などや抗凝固薬であるワーファリン®(ワルファリン)などを内服中の方は休薬が必要となるため、必ず診察時に申し出てください。

Gleason score(グリーソンスコア)とは

Gleason scoreは前立腺がん特有の分類で、病理組織検査により診断します。前立腺がんの浸潤パターンや構造異型に着目してがんの形態をパターン1~5の5段階に判定します。前立腺がんの特徴として組織像の多様性があるため、量的に最も優位なパターンとそれより劣勢なパターンの数の合計をGleason scoreとして表現します。
立川病院では前立腺生検によって採取した組織で病理組織検査をおこないます。通常、生検から2週間程度の期間が必要です(病理診断部に要確認)。

前立腺がんの治療

前立腺がんには手術治療、放射線治療、ホルモン治療などいくつかの治療方法があります。各患者さんに適した方針を決定するために、まずは画像検査で病期を決定(ステージング)します。
早い段階で発見された場合、手術治療や放射線治療により完全に治せることも少なくありません。がんがすすんでいる場合には完治が難しくなりますが、ホルモン治療が有効です。
立川病院では、手術治療、放射線治療、ホルモン治療が可能です。詳細については各項目をご参照ください。

前立腺がんの病期(ステージ)分類

前立腺がんの病期分類はステージA、B、C、D に分かれます。病期分類はTNM分類をもとに振り分けられます。TNM分類の決定には、MRI、CT、骨シンチなどの画像診断を用います。
ステージAは偶発がん(TNM分類のT1a, T1bにあたります)で、他の目的で切除された前立腺のなかに偶然見つかるがんのことをいいます。例えば、膀胱がんに対する膀胱前立腺全摘除術や、前立腺肥大症に対する経尿道的切除術のときに見つかることがあります。
ステージBは前立腺がんが被膜内にとどまっている状態(TNM分類のT1c, T2a, T2b, T2c)です。
ステージCは前立腺がんが被膜外浸潤や精嚢浸潤(TNM分類のT3a, T3b)している場合の局所浸潤癌です。
ステージDは前立腺がんが周辺臓器まで浸潤(TNM分類のT4)したり、リンパ節転移(TNM分類のN1)、他臓器転移(TNM分類のM1)した状態です。
分類上、ステージBとステージCのちがいは前立腺をとりかこむ被膜を越えているかどうかですが、実際には、画像診断での病期分類(臨床的病期分類)と、前立腺全摘出して判明する病期分類(病理学的病期分類)と一致しないこともあります。そのため、臨床病期分類に加えてPSA値、Gleason scoreを用いた「日本版ノモグラム」という表で病期予測を加えることができます。

前立腺がん骨転移

前立腺がんの転移先は骨が最多です。骨に転移している(ステージD)かどうかは骨シンチで診断します。骨転移をすると痛み(がん性疼痛)や骨折(病的骨折)がおこる可能性があります。それらの症状を骨関連事象(骨イベント)といいますが、その発症を遅らせる効果が期待できる薬にはゾメタ®(ゾレドロン酸)やランマーク®(デノスマブ)というお薬があります。
立川病院では骨転移に対する検査や治療ができます。

前立腺がんの手術療法

ステージBの場合、根治的前立腺全摘除術ができます。前立腺と精嚢および精管膨大部を合わせて摘出し、切断された膀胱頸部と尿道の縫合術を行う手術です。方法にはいくつか種類がありまして、開腹手術(恥骨後式前立腺全摘除術;RRP)の他に腹腔強下内視鏡手術(LRP)やロボット支援前立腺全摘除術(RARP)があります。いずれの方法においても術後合併症としてはED(勃起機能障害)と尿失禁が代表的です。
手術をすれば必ず治るというものではなく、手術後5年間は経過をみる必要があります。再発が認められた場合には救済(サルベージ)放射線治療やホルモン治療を追加します。
立川病院ではロボット支援腹腔鏡下前立腺摘出術(RARP)での根治的前立腺全摘除術ができます。入院クリニカルパスを使用しており、入院期間は通常7泊8日程度です。

前立腺がんの放射線治療

前立腺がんの放射線治療には外照射療法と組織内照射療法があります。外照射療法には通常照射、三次元原体照射(three-dimensional conformal radiation therapy: 3D-CRT)、強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy ; IMRT) があります。治療オプションとなる対象はステージBとステージCの方です。有害事象としては急性期には頻尿、排尿時痛、血尿、下痢などがありますが、放射線治療終了後1ヶ月以内に改善することが多いです。数カ月後に認められる晩期有害事象としては直腸出血や尿道狭窄があります。組織内照射療法としてはヨウ素125による永久挿入密封小線源療法(low dose rate: LDR)が代表的です。放射線を出すシード線源を前立腺内に埋め込む方法ですが、前立腺がんの悪性度や前立腺容積で適応が制限される場合があります。放射線治療をすれば必ず治るというものではなく、手術後5年間は経過をみる必要があります。再発が認められた場合にはホルモン治療を追加します。
立川病院では外照射療法のなかでも三次元原体照射ができます。治療期間としては約2か月間の通院治療となります。放射線治療を受けられる方にはホルモン療法を先行させ併用するネオアジュバントを推奨しています。放射線による晩期障害(とくに直腸障害)発生の可能性をおさえるために、SpaceOAR®(スペーサー)を直腸と前立腺の間に注入する方法もご紹介しています。

ホルモン(内分泌)療法

前立腺がんはアンドロゲン(男性ホルモン)に依存しており、ホルモン療法というのはアンドロゲンを遮断する治療法です。具体的にはアンドロゲンを低値に保つためのGnRHアゴニストであるゴナックス®(デガレリクス)やGnRHアンタゴニストであるリュープリン®(リュープロレリン)やゾラデックス®(ゴセレリン)といった注射剤に加えて、アンドロゲン受容体遮断薬であるカソデックス®(ビカルタミド)という内服薬を使用します。どちらか片方のみで治療を行うこともありますが、両剤を併用することをCAB(complete androgen blockade)といい、確かな効果が得られます。ホルモン療法を行う方は、手術や放射線といった根治治療を希望されない方や、根治治療における補助療法(ネオアジュバント療法やアジュバント療法)、進行していて(Stage D)など根治治療が適応とならない方です。ホルモン療法の有害事象として、骨塩量の低下、インスリン抵抗性の増加、体脂肪増加などとの関連性が示唆されています。ホルモン療法が奏功すると前立腺がんの進行が停止しますが、完治というわけではないので継続した通院が必要となります。PSA値が低値で安定している方は間欠的ホルモン療法といって、途中で中断しPSA監視療法に切り替えられる方法もあります。

PSA監視療法(積極的無治療経過観察、active surveillance)

前立腺がんの診断がついても、すぐには治療を開始せず無治療で経過をみることをいいます。待機療法(watchful waiting)とも言います。経過観察中に前立腺がんの悪化していないかを監視するために、定期的PSA採血をおこないます。PSA監視療法が治療オプションとなりうる厳密な基準はありませんが、一般的には前立腺がんのなかでもとくにおとなしそうな前立腺がん(insignificant cancer)に対しておこないます。日本泌尿器科学会(JUA)の「前立腺がん検診ガイドライン2010年増補版」では基準を生検でのGleason score 6以下、陽性コア2本以下(陽性コアでの主要占拠割合50%以下)で、PSA10ng/mL以下、臨床病期T2 以下の場合としています。またNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは基準を生検でのGleason score 6以下、陽性コア3本以下(陽性コアでの主要占拠割合50%以下)でPSA10ng/mL未満、さらにPSA density 0.15 ng/mL/g未満としています。

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC; castration resistant prostate cancer)

ホルモン治療が効かなくなった前立腺がんのことを去勢抵抗性前立腺がんといいます。その場合にはタキソテール®(ドセタキセル)を用いた抗がん剤治療も行うことができます。その有害事象としては白血球減少、好中球減少、食欲低下、便秘などがあります。アーリーダ®(アパルタミド)、ニュベクオ®(ダロルタミド)、イクスタンジ®(エンザルタミド)、ザイティガ®(アビラテロン)、ジェブタナ®(カバジタキセル)を使用することもできます。これら薬剤を使用する順番はまだまだ議論のあるところです。
タキソテール®(ドセタキセル)、ジェブタナ®(カバジタキセル)は点滴薬剤ですが、外来科学治療室を用いた通院治療としても受けることが可能です。
骨への転移に対しては、放射線ラジウム内用療法(ゾーフィゴ®)が受けられます。投与に際してはいくつかの注意事項があります。

緩和治療

前立腺がんにかかってしまったことで辛い思いをされている方、がんの治療をすることでいろいろな心配事がある方には早期より相談にのります。前立腺がんが進行してくると、排尿障害や腰痛などの骨の痛みがでてくることがあります。がんによる痛みのことをがん性疼痛といい、QOL(Quality of Life)を損ないます。疼痛対策としては鎮痛剤やステロイド剤、ビスホスホネート剤、放射線治療を検討します。鎮痛剤は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から医療用麻薬(モルヒネ)など強オピオイドを使用することがあります。その他、前立腺がんの進行に伴うまれな病態として、脊椎転移による脊髄麻痺と膀胱浸潤による水腎症がありますが、適宜対応致します。
立川病院では放射線治療、医療用モルヒネが使用できます。また、緩和ケア外来や地域連携室を利用することができます。