対象疾患
眼瞼下垂、睫毛内反(さかさまつげ)、顔面神経麻痺後後遺症、眼瞼痙攣
腋臭症(わきが)、腋窩多汗症
リンパ浮腫
陥入爪、巻き爪
毛巣洞、慢性膿皮症、腹壁瘢痕ヘルニア など
眼瞼下垂
概要
顔を正面に向けたときにまぶたが瞳孔(黒目の真ん中)の上まで充分に上がらずに視野が悪くなる状態です。原因には先天的なものもありますが、多くは後天的で数年かけて少しずつまぶたの下がる腱膜性もので、加齢、ハードコンタクトレンズ装用、花粉症で目を擦るなどの原因が挙げられます。
後天的なものの中には重症筋無力症や脳梗塞などによる動眼神経麻痺、筋硬直性ジストロフィー、ミトコンドリアミオパチーなど神経・筋肉に問題のる疾患に伴うものもあり、脳神経内科での精査を先に行う必要がある場合もあります。
腱膜性眼瞼下垂症は手術以外に改善の方法はないため、これに対し、当科では多く手術加療を行っています。(いずれも保険診療)
症状
腱膜性眼瞼下垂の症状としては、まぶたが下がることにより、上の方が見にくい、眉毛を挙げて補助するために、おでこに皺が寄る(代償性前頭筋使用)、それでも上がらない場合は顎を挙げてものを見るなどがあり、これが眼性疲労、肩凝りの原因となっている場合があります。
見た目には上まぶたが瞳孔にかかった状態です。眉毛を押さえた状態でまぶたを開け閉めしてみて判断します。
これらの症状は時間をかけて徐々に症状が悪化したもので日内変動をしません。日内変動がある場合(重症筋無力症を疑う)や突然下がった場合(脳梗塞などの可能性)他の筋肉の脱力などある場合(ミオパチーや筋硬直性ジストロフィーなどの可能性)は、他の疾患を除外する必要があります。
手術
先天性眼瞼下垂、腱膜性眼瞼下垂に対しては、まぶた(挙筋腱膜)をあげる手術を行います。脳梗塞など他の原因によるものの場合は原疾患の治療を先に行い、まぶたの症状が改善しない場合には手術を行うこともあります。
手術は、術中にまぶたの上がり具合を確認しながら行うため、局所麻酔で行います。(お子さんなど状況により全身麻酔)基本的には両まぶた同時に行い、術後止血と腫れ予防のため2~3時間両まぶたの圧迫を行うので1泊の入院で行っており、抜糸は外来で行います。抜糸までの間はまぶたの腫れや縫合した糸が見えるなどがありますが、それが許されれば、日常生活、仕事などの制限はありません。
切開はふたえの場所(あるいはふたえの位置としておかしくない場所)で、余剰(たるんでしまった)と思われる皮膚・筋肉・眼窩脂肪の切除を行った後に伸びてしまった眼瞼挙筋腱膜を短縮します。この手術は術式の関係上必ず「ふたえ」になります。
術後まぶたの腫脹は比較的長く持続します。また、必ずしも(もともと)左右均等になるわけではありません。年数が経過し、再度下垂することや、半年~1年後に修正、追加手術を行う場合もあります。
先天性眼瞼下垂の場合など、挙筋がそもそも機能していない場合があり、この場合は筋膜を移植したり、眼輪筋、前頭筋を固定したり、他の術式になる場合がります。
睫毛内反症(さかさまつげ)
概要
いわゆる「さかさまつげ」です。内反したまつげにより角膜を刺激する状態が続き、角膜損傷を繰り返すものです。これは痛みを発生するのみならず、慢性的な角膜の傷は視力にも影響する可能性があります。
眼科などで抜毛することで一時的な症状の改善は得られるものの、根本的には手術以外で改善することはできません。
原因には先天性(東洋人特有の結合織の厚さや蒙古ひだによるもの)、老人性(先天性と同様理由に加えて皮膚や眼輪筋のゆるみが重なることによるもの)、瘢痕性(炎症や外傷による瘢痕拘縮によるもの)があります。
手術
局所麻酔で片目であれば日帰りでの手術です。
手術はまぶた自体を外反させる手術です。内反症状のある範囲でまつ毛のきわを切開し、余剰皮膚やたるみのある場合は皮膚を合併切除し、まぶたの皮膚を外反させるように癖付けして瞼板(瞼のきわ付近にある軟骨)に糸で固定します。上まぶたの場合はもともとのふたえの部分を切開し、下まぶたの場合はまつ毛のすぐ下を切開します。このため、下まぶたに幅の狭いふたえのようなあとがつきます。
切開したところは縫合し、こちらは1週間程度で抜糸をします。
術後一時的に過矯正となり、兎眼(「あかんべー」状態)やドライアイ(かわき目)になる場合があります。
顔面神経麻痺後遺症
概要
顔面神経は主に顔の筋肉である表情筋を動かす神経で、何らかの原因でこれが麻痺した場合顔貌が大きく変わってしまいます。具体的な表情筋の麻痺症状としては、眉毛・まぶたが垂れ下がる、目を完全に閉じることができず眼球が乾燥し、痛む、笑うと顔が歪むなどです。
原因としては先天的なもの、後天的なものがあり、後天的なものはウイルスによるベル麻痺やハント症候群などが多くありますが、聴神経腫瘍や耳下腺腫瘍切除に伴うものや外傷によるものもあります。
顔面神経麻痺の新鮮例(発症間もないもの)については、外傷以外は主に耳鼻科で診断、治療することになり、時間により回復する場合もあります。
自然回復が見込めない、あるいは腫瘍切除時の合併切除でそもそも欠損しているなどの場合に形成外科で顔面神経麻痺に対する静的あるいは動的再建を検討します。
また、顔面神経は運動神経のみならず、唾液を出す、涙を出すなどの指令も出す神経で、顔面神経麻痺の回復時にまちがったネットワーク(過誤支配)を構築してしまうことがあります。具体的には、食事時に涙が出る(「ワニの涙」)、笑うと目を閉じてしまう。などです。これらに対する対応も薬物的に対応できる場合があります。
手術
悪性腫瘍切除時など、最初から欠損予定となっている場合などは同時に神経移植による神経再建を行う場合があります。
以下は主に行う手術の方法を記しますが、詳細な適応は、発症時期やその原因、麻痺の程度により治療法、手術法は異なりますので、外来でご相談ください。
眉毛下垂、眼瞼下垂「眉毛がさがり、まぶたも下がり、前が見にくい」
顔面神経のひとつの枝である側頭枝の麻痺による症状で、これにより、前頭筋(おでこに皺を寄せる筋肉)が麻痺します。このため、眉毛が下がります。
1.眉毛挙上術:眉毛の上の皮膚を1㎝幅程度切除し、上の方向へ眉毛を引き上げて骨膜に固定する方法です。時間経過とともにゆるんでしまうので、最初は健側よりもやや高めに固定します。
2.眼瞼余剰皮膚切除(眼瞼下垂症手術):眼瞼下垂の項参照
麻痺性兎眼「目が閉じられず眼球自体が乾燥して赤い、痛い」
目の周りに同心円状にある眼輪筋の麻痺に伴い出現する症状です。麻痺のない状態では適度な緊張を筋肉が保っているために、下まぶたは眼球にはりつくように位置していますが、麻痺をするとそれがゆるみ、閉じにくく、眼球自体を保護することができなくなってしまいます。
1.側頭筋移行術:咬む時に使用する側頭筋を一部移行する術式です。もみあげの上の方の髪の毛の中を切開し、側頭筋の一部を短冊状に割いて下まぶたの下に移行します。これにより、下まぶたに適度な緊張が生まれ、尚且つ咬む行為により目を閉じることができます。
2.下眼瞼外反形成術:眼輪筋が萎縮することにより下まぶたが外側に垂れ下がり眼球と接しなくなった状態を下眼瞼外反症と言います。これに伴い目の乾燥がひどくなったり、涙がこぼれやすくなったります。これを解消するために、支えを作る手術です。程度により、皮膚や眼輪筋のつり上げ固定術、耳介軟骨移植、筋膜移植などを行います。
表情のゆがみ、うまく笑えない、口角の下垂
片側の顔面神経麻痺がある場合に笑おうとした場合、動く方に動かない方が引っ張られて大きくゆがんだり、顔面を動かしていない時でも左右の非対称が目立つ場合があります。
1.筋膜移植(静的再建):動かない、あるいは下がってしまっている口角などを大腿筋膜を移植し、上方へつりあげて固定します。これにより安静時の左右差や笑った時の左右差が軽減しますが、筋肉が動くわけではないのでより自然な表情の獲得のためには下記の動的再建を行う場合があります。
2.筋肉移植(動的再建):麻痺した筋肉の変わりに動かす筋肉を移植する方法です。これはいわゆる遊離皮弁による再建術(乳房再建の項参照)となりますので、血管吻合術及び筋肉を動かす必要があるため、神経吻合(移植なども)の必要があります。遊離筋弁は主に前鋸筋を用います。遊離皮弁移植ですので、術後数日~1週間は血栓形成などを注意深く検察する必要があります。また、神経を吻合してもすぐに機能するわけではなく、その回復には数か月から1年がかかり、リハビリテーションが必要です。
筋肉を移植しますので、静的再建よりも自然な表情の再現が可能ですが、将来的に筋肉のボリュームの調整や動きの調整などが必要になる可能性があります。この方法の場合は専門的に行っている関連他施設へ紹介させていただく場合があります。
眼瞼痙攣、顔面痙攣
概要
眼瞼痙攣は両側の眼輪筋(目のまわりに同心円状にある、目を閉じるための筋肉)の攣縮(ぴくぴく)が不随意に反復して出現する状態です。
進行はゆるやかで自然軽快はまれです。
(片側)顔面痙攣は顔面神経の不随意な興奮によって支配筋である表情筋が攣縮する状態で、通常は頭蓋内の顔面神経出口部における動脈との接触が原因です。このため、検査の上原因血管がはっきりする場合は脳神経外科で減圧術などが行われます。
形成外科での治療:いずれの疾患に対してもボトックス治療が効果的な場合があります。
ボトックス(A型ボツリヌス毒素)について
神経伝達に必要な末梢神経終末からのアセチルコリン放出を阻害する効果があります。これにより、筋肉の収縮、発汗などを押さえる効果があり、この筋肉の収縮の抑制効果により、筋肉の攣縮を抑制し、痙攣症状を抑えます。
ボトックスの効果は一時的で一定時間が経つともともとの神経の機能は回復します。このため、数か月に1回の反復投与が必要な反面、治療結果が不満足であった場合もいずれ毒素の効果はなくなり、もとに戻ります。
美容外科でのしわとり目的のボトックスは保険外診療ですが、顔面痙攣、眼瞼痙攣治療は保険診療となります。
眼瞼痙攣の場合、眼輪筋切除:攣縮している眼輪筋の一部を切除して攣縮を緩和します
腋臭症(わきが)、腋窩多汗症
概要
腋臭症(わきが)治療と腋窩多汗症の治療は分けて考える必要があります。「臭いが気になる」のか「汗は多いけど臭いはない」のかにより治療法は変わってきます。簡潔には腋臭症→手術、腋窩多汗症→ボトックス治療(保険診療)となります。
腋窩にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺が存在し、前者は皮膚に直接、後者は毛包に開口します。多汗症は主にエクリン腺の分泌亢進に起因し、腋臭症は湿潤環境でアポクリン汗が過剰に分泌され、皮表に存在する細菌叢により化学変化を受け臭気のもとである低級脂肪酸を分泌することに起因します
エクリン汗腺の分泌はコリン作動性の伝達を受け、アポクリン汗腺の分泌はアドレナリン作動性の伝達を受けるとされています。このため、眼瞼痙攣の項でも述べた通りボツリヌス毒素は抗コリンとして作動しますのでエクリン汗腺の発汗、すなわち多汗症治療に有効となります。
逆にボツリヌス毒素ではアポクリン汗腺の発汗は抑制できませんので、臭いの改善には効果がないことになります。
手術
腋臭症に対して当院では手術を行っています。全身麻酔で、10日間程度の入院が必要となります。
当院で行う手術は「皮弁法」といい、エクリン腺、アポクリン腺があるであろう深さの(毛包の深さ)皮下組織を尖除する方法です。
具体的には腋の毛のある範囲の中央に1本ないし2本の皮膚切開を行い、ここから皮膚をめくり上げて毛のある範囲の皮膚の下の層をはさみでそぎ取ります。
その後切開した部位を縫合し、さらに剥離した(はがした)皮膚がくっつくように、ガーゼを厚くして固定しておきます。
この皮膚の生着が安定するのに術後1週間程度必要なため、入院期間が上記のようになります。また、汗腺は目で確認できませんので、毛根を目安に手術を行います。このため、この手術では「臭いを完全に無くす」補償はありません。あくまで「臭いを減らす」ことが目標となります。
また、この手術は汗の腺を徹底的に切除しようとすればするほどキズアトが汚くなってしまう手術ですが腋なので、目立つことはありませんし、理論的には汗のみならず脱毛効果もある手術です。
リンパ浮腫
概要
詳細は健康コラム「足のむくみ」、リンパ浮腫外来の項を御参照ください。
手術
形成外科では潅流不全となったリンパ管を付近の静脈へ吻合し、バイパスを作ることで浮腫軽減を図る「リンパ管静脈吻合術」を行います。
複合的理学療法と手術療法を組み合わせることで改善が期待できます。
リンパ管静脈吻合術:当院では局所麻酔で手術をしています。リハビリテーションも兼ねて約1週間の入院で、手術時間は4~5時間です。
術前に蛍光色素注射などの検査で大凡のリンパ管の状態及び位置を確認し、その上で2~3㎝程度の切開でリンパ管と静脈を顕微鏡を用いて吻合します。リンパ管は1㎜未満の太さなので、大変繊細な手術となり、このため、手術時間が長くなりますが、手術範囲はとても狭く、局所麻酔なので、体の負担の少ない手術と言えます。時間内にできるだけ吻合するようなやり方ですが、平均2か所程度の吻合となります。
陥入爪、巻き爪
概要
巻き爪は加齢、スポーツ、不適切な靴、外反母趾などの指(趾)の変形など様々な原因が考えられます。陥入していたり、これに伴って炎症を起こしたり(ひょう疽、爪周囲炎)、反応性の肉芽形成をしていてこれからの出血や浸出が持続していたり、疼痛がある場合に治療対象となり、ただ巻いているだけの場合は正しい爪切りのケアのみで治療を要さないことが多いです。
治療
まずは正しい爪切り法の習得が重要です。基本的な概念は「スクエアカット」と爪は「長く伸ばす」です。疼痛がある場合短く切ってしまいがちですが、それを繰り返したり、中途半端に短く切ることにより、端の部分がくさび状になり、周囲の皮膚へ食い込むという悪循環を引き起こしがちです。
かといって、既に短く切ってしまったり、周囲の肉芽にくさび状になった爪が入り込んでいる場合にただただ爪を伸ばすことは困難です。このような場合には爪を疼痛なく伸ばせるような補助治療を行います。具体的にはコットンパキングやGutter法により、爪が直接周囲皮膚に当たることを避けるような処置を行います。
このようにして充分に爪の長さが保てるようになった段階で疼痛が残る場合は形状記憶合金ワイヤーあるいはプレートによる爪の矯正処置を行います。(自費の項参照)
これらの方法でも改善が得られない場合、炎症が強固な場合に初めて外科的治療(抜爪、部分抜爪術)を検討します。
これも、基本的には入院を要さず、外来で局所麻酔(趾ブロック麻酔)で手術可能です。術後ガーゼなどが一定期間あたりますが、歩行などには問題ありません。
腹壁瘢痕ヘルニア
概要
外科などで開腹術後などに筋膜層の癒合不全や閉鎖不全により筋層が離開し腹腔内容が皮下へ脱出した状態(いわゆるおなかの「脱腸」)です。腹部手術の3~5%におこると言われています。
脱腸自体に緊急性はありませんが、再度開腹術が必要になった場合などに再発予防目的に当科でヘルニア根治術を行う場合があります。
また、悪性腫瘍の切除などで腹壁(腹直筋を含むおなかの壁)欠損がある場合も同様に当科で再建を行うことがあります。
手術
当科単独での手術になることは比較的稀で、主科手術時などに同時に手術を行います。大きさ、部位、体格、人工肛門の有無などにより方法が異なります。
腹壁メッシュ再建:人工物を使って閉鎖する方法です。比較的簡便ですが、術後感染や再手術時の入れ替えの可能性などのリスクを伴います。
大腿筋膜移植:ふとももの筋膜を移植する方法です。比較的小さく、腹圧のかかりづらい場所での再建法です。
Component separation法:残っている腹直筋、外腹斜筋などに切り込みを入れて腹壁を伸展させる方法です。正中部のある程度の大きさの欠損にたいする再建法です。
前哨翻転法:欠損周囲の腹直筋の上の筋膜である前哨と皮下脂肪を反転させて塞ぐ方法です。比較的小範囲の正中よりの欠損に対して行います。
大腿膜張筋皮弁:ふとももの外側の皮膚に筋膜をつけた状態で足の付け根で折り返し、腹部の欠損をふさぐ方法です。比較的大きな欠損も塞ぐことができ、強固な腹壁を再建できますが、皮弁を採取した大腿部に大きな傷あとがつきます。
その他の皮弁:適宜腹直筋皮弁、鼠径皮弁、など他の皮弁を使用する場合があります。