脊椎転移に関心を
骨転移発生数の正確な把握は困難ですが、癌患者全体における骨転移の頻度は約12%程度との報告があります(日本病理剖検輯報1980〜1999)。
原発部位は肺癌、前立腺癌、乳癌などで骨転移の発生率は高く、臓器の血流の関係から脊椎、骨盤、上腕骨の肩周辺、大腿骨の股関節周辺は骨転移の好発部位です。脊椎・骨盤は体を支える大黒柱であり骨転移による疼痛は活動を著しく阻害します。さらに脊椎は脳と体をつなぐ脊髄を脊柱管に内包するため、脊椎で腫瘍が増大すると脊髄・馬尾・神経根への圧迫により四肢・体幹の疼痛や麻痺をきたし影響は甚大です。
脳卒中では体の右もしくは左に麻痺が出て片麻痺と呼ばれますが、脊椎転移においては頸椎であれば首から下、胸椎であれば胸から下というように病変部位から下の両側に麻痺が出現し対麻痺と呼ばれます。先行して出現する脊椎転移による痛みは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの良性疾患に比べるとより深刻でかつ、麻痺は急速に進行し重篤かつ不可逆となりがちです。何事も早期診断・早期治療が経過はよく、脊椎転移に対し早期からの適切な介入が望まれます。圧迫の程度が軽い段階、圧迫を生じてから短い期間で手術や放射線などで治療できた際は症状の重篤化を防げる可能性があります。麻痺で動けなくなると抗がん剤などの内科的治療もリスクが高まり実施困難となるため、治療を断念せざるをえません。また動けなくなることは余病の発症や体力の低下による原病の進行などをきたし短命効果を惹起します。
X線検査においてはかなり進行しないと変化がでないので、脊椎転移を早期に診断することは不可能です。時間とともに進行する腰・背部痛や頚部痛で鎮痛薬も効かなくなるような際は、できるだけ早く脊椎を調べるMRI検査をかかりつけの先生とご相談ください。2020年7月から2023年6月の3年間に当科で手術治療をした脊椎転移症例34例のうち脊椎転移の症状が癌診断のきっかけとなる初診時原発不明症例が25例であり、実に10人中7人が癌の既往歴のない方でした。