はじめに
通常の根管治療を行っても治癒しない難治性根尖性歯周炎をみることは日常臨床において少なくない。実際には根管治療の過程で、打診痛や自発痛が続き、歯肉の腫脹を認め、瘻孔や根管からの排膿が止まらないといったことがある。
これらによりいつまでも根管充填ができず、難渋する症例を経験することも多い。また根尖病巣が大きく、嚢胞を形成していて根管治療では治癒が望めない様な場合には抜歯となってしまうケースが多い。
われわれはこれらの難治性根尖性歯周炎に対し、歯を保存するための外科的救済法として歯根端切除術を考える。
原因
根尖病巣とは根尖膿瘍、歯根肉芽腫、歯根嚢胞に分類されるが、臨床的には境界ははっきりせず区別はつかない。原因は細菌感染によるもので、歯根のどこかに感染源が残っていることによる。そのほとんどが根管にあるが、根管治療をしても治癒を認めない場合は根尖部の感染歯質(壊死セメント質や感染象牙質)が残っていること、また歯根嚢胞そのものが細菌の培地となり感染源となっていることが考えられる。
検査
CBCTで立体的な病巣の形態、根管の状態(複数根の場合どの根管が原因なのか)、および上顎洞・オトガイ孔・下顎管の位置関係を把握できる点で有用である。しかしながら、この手術を受ける患者は金属冠などの補綴物やメタルコアが入っていることが多く、ハレーションに伴い不鮮明な像を呈することも多い。
鮮鋭度の高いデンタルX線フィルム写真では歯槽硬線、歯根膜空隙および壊死セメント質をみるうえで非常に優れている。
適応症と非適応症
根管治療が可能で、治る見込みがある場合や未根管充填部が多い場合には根管治療を選択する。歯根端切除術は、根管治療が不可能なものや可能であっても予後不良の可能性が高いものに対して行う。
【適応症】
① 適切な根管治療を長く続けているが、症状が消失しない、あるいは根管からの排膿が止まらないなど治癒不良である。
② 適切な根管充填を行った後に、症状が出現する。
③ 根管が閉鎖や弯曲していたり、メタルコアの除去が困難なため根管治療ができない。
④ 根尖孔の破壊や歯根の炎症性吸収があるため適切な根管充填ができない。
⑤ 根管に穿孔、副根管、内部吸収および外部吸収があるため根管治療ができない。
⑥ 根管充填材が根管外に漏れて感染している。
⑦ 根尖部に感染歯質(壊死セメント質や感染象牙質)があり、細菌感染源となっていると思われる。
【非適応症】
① 歯根に広範囲な破折や亀裂がある。
② 歯根に広範囲な感染歯質(壊死セメント質や感染象牙質)がある。
③ 根尖病巣が大きく歯頸部まで骨の吸収があり、歯周ポケットと交通している。
【適応される歯】
① 上顎前歯から第1大臼歯近心根、遠心根(口が小さい場合は困難)。
② 下顎前歯から第1大臼歯近心根(遠心根は困難、逆根充ができず切断のみとなり不確実)。
また、上下顎第2大臼歯は手術視野が悪いため、意図的再植で対応できることもある。
患者さんへの説明
患者はなんとか歯を残したいと来院することが多い。本来抜歯の適応である場合でもこの手術を強く希望することがみられる。
そのため適応症、非適応症をよく見極め患者に説明する必要がある。
デンタルX線写真やCBCTでも原因がはっきりしないこともある。
なかにはフラップをあけて確認しないと原因がわからない場合もあり、そこで予後の推察が初めてできることもある。
あらかじめそのことも説明しておかなければならない。最終的には術後1年での治癒の評価が重要である(当科では最低3年までは予後の経過観察を行っている)。
ごくまれに、この手術を希望する患者に非歯原性歯痛などが含まれる。
手術の際は注意を要することもある。