がん術後リンパ浮腫
乳がん・子宮がん・卵巣がん・泌尿器系がん(前立腺・尿管・膀胱)などの手術などでリンパ節を切除すると、リンパの流れが悪くなりむくみが生じます。これが「リンパ浮腫」です。 リンパ浮腫は、適切なケアを行うことで発症を防いだり、悪化を防止したりできます。
浮腫の鑑別診断
急性か慢性か、全身性か局所性か、などから鑑別診断を進めています。
鑑別のための検査としては、血液検査(Dダイマー値、甲状腺機能も含めて)、尿検査、胸腹部レントゲン検査、心電図、心エコー、浮腫の部位にて上肢静脈エコー、下肢静脈エコー、胸腹部CT検査を実施し鑑別診断を進めます。
リンパ浮腫のケア
当院のリンパ浮腫外来にて治療している浮腫は、腋窩リンパ節廓清や骨盤内リンパ節廓清を施行したがん術後二次性リンパ浮腫です(リンパ節切除によるリンパ還流障害を原因とする四肢のリンパ浮腫)。
複合的理学療法(スキンケア、運動療法、弾性着衣の装着、リンパドレナージ、体重コントロール)を実施します。浮腫の状態によっては、リンパ還流を改善させるためのリンパ管静脈吻合手術も実施します。
この中でも特に日常生活の注意点として、スキンケアの重要性・蜂窩織炎予防が大切であることを指導しています。
弾性ストッキング着用継続のポイント
弾性ストッキングの着用については、薄手のストッキングを使うときには膝下や足関節での食い込みがないように気をつけるように伝えています。
弾性ストッキングを着用することは、患者さんにとって基本的に苦痛であり、めんどくさいことであることを理解し、継続することでの治療効果を本人が実感するために、外来では必ず下肢の周径測定を行い、改善を実感していただくようにしています。
また、体重測定し体重減少を実感することも有効です。

Q&A
Q1.手術を受けるとみんな浮腫になるのでしょうか
リンパ節を切除した方がすべて浮腫を発症するわけでは無いです。リンパ管にはたくさんの側副路がありますので、本幹に循環不全がおきてもそちらを回って還流されるためです。したがって側副路の状態によって発症の頻度、時期が決まってきます。ただいつ発症するのかの予測は不可能ですので、日々のケア、観察により発症予防、早期発見早期治療を行うことが重要です。Q2.予防にはどんな方法がありますか
スキンケアが重要です。リンパ浮腫診療ガイドラインでもグレードB2と推奨されています。皮膚を清潔に保ち保湿をすることで皮膚のバリア機能を維持することができます。リンパ浮腫のある場合はもちろん、発症前でもリンパ液が皮下に貯留している場合細菌感染への抵抗性が低下するとされています。細菌感染による蜂窩織炎はリンパ浮腫の発症原因ともなりますし、増悪原因ともなります。
Q3.予防的にマッサージや圧迫をしたほうがよいのでしょうか
リンパ浮腫の治療として、リンパドレナージや圧迫治療は有用ですが、発症前の予防としての効果についてははっきりとした根拠は示されていません。逆に、不適切な圧迫は末梢の浮腫を生じ、不適切なマッサージは皮膚障害や鼠蹊会陰部の浮腫を発症させるリスクとなります。Q4.リンパ浮腫は治りますか
残念ながら根治することはありません。治療の基本は悪化の予防となります。現状維持ができれば良しと考えケアを継続します。また、そのケアを継続することにより皮膚の硬化の改善が得られ、さらに浮腫の改善が得られることになります。Q5.リンパマッサージとはどのようなものなのでしょうか
マッサージには二通りあり、セラピストが行う用手的リンパドレナージと患者家族が自宅で行えるシンプルリンパドレナージ(セルフリンパドレナージ)があります。いずれも適切にリンパ液が流れる方向に向かい、うっ滞している組織間液やリンパ液の排出を促すことが目的です。また水分の移動のみならず、停滞しているタンパク質の再吸収を促進するという効果も認められます。繊維化した皮膚を柔らかくする効果もあります。 そのタッチは柔らかく、えてして弱すぎると感じる方もいます。 禁忌となる状態もありますので、医師の指示のもとセラピストによる施術、若しくはセラピストによる指導が必須となります。
Q6.空気マッサージの器械は有効でしょうか
ガイドライン上は上肢下肢ともに予防効果はなく、治療効果としても上肢のリンパ浮腫に対してのみ質の低いエビデンスがあるとされています。 よって施行については、担当医師の判断に委ねられます。Q7.手や足、顔と全身がむくむことはあるのでしょうか
二次性、術後リンパ浮腫によって全身がむくむことはありません。これはリンパ節切除後にその末梢のリンパ還流障害を原因として浮腫が発症するためです。従って乳腺手術リンパ節切除後の浮腫は手術側に、骨盤内リンパ節切除後の浮腫は下肢に生じます。全身性の浮腫の場合は心臓、腎臓、肝臓といった内臓疾患を原因としている可能性があります。Q8.スポーツや旅行をしてもよいのでしょうか
スポーツや、旅行を楽しんでいただけます。リンパ浮腫が発症していない場合は、スキンケアと日々の観察を継続すれば良いです。浮腫発症後では、一定の見解は得られていないのですが、上肢の浮腫の場合、腕を振り回すような運動は、浮腫の悪化の原因となり得るとはされています。スポーツ前後で腕の状態の観察をお勧めします。旅行時は、腕では重い荷物を運ぶ時や、肩バックを背負う時は上肢に負担をかけないようにしてください。また下肢の浮腫の方は長時間同じ姿勢で居る時や、長く歩行をする時などきちんと圧迫をするようにしてください。温泉に入っても問題ありません。四肢が温まると一時的にむくみますが、自然に改善します。

Q9.保険で治療はできるのでしょうか
セラピストによるマッサージやバンデージの一部は保険診療になりました。医師による、浮腫の状態や禁忌の検索も保険診療となります。Q10.ストッキング代の療養費補助とはどのようなものでしょうか
弾性着衣や弾性包帯は条件つきですが、療養費といった補助の対象となります。対象となる疾患および弾性着衣は以下の様になります。 疾患:リンパ節廓清を伴う悪性腫瘍の術後に発生する四肢のリンパ浮腫(悪性黒色腫、乳腺をはじめとする腋窩部のリンパ節廓清を伴う悪性腫瘍、子宮悪性腫瘍 子宮附属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍及び膀胱をはじめとする泌尿器の骨盤内のリンパ節廓清を伴う悪性腫瘍、上記以外のリンパ節廓清を伴う悪性腫瘍)。 製品:着圧が30mmHg以上の弾性着衣。ただし医師の指示により特別の指示がある場合は20mmHg以上から可となります。 弾性包帯:医師の判断により弾性着衣を使用できないとの指示がある場合に限り支給対象となります。Q11.浮腫のある四肢が赤くはれました。どうしたら良いでしょう
蜂窩織炎(ほうかしきえん)が考えられます。 浮腫のある四肢は感染に弱くなっています。ちょっとした傷から感染を起こし皮下の炎症を引き起こすことがあります。浮腫発症の原因となることもあり、また浮腫の増悪の原因ともなります。早期治療が必要です。乳腺外科や婦人科担当医師、若しくは皮膚科を受診してください。また、炎症を起こしているときは、マッサージや弾性着衣は刺激になり炎症のなおりを悪くします。担当医から許可がでるまでは、マッサージおよび弾性着衣はお休みしてください。
Q12.手術後太ってしまいました、浮腫に影響しますか
肥満は、リンパ浮腫のリスクを高め、ケアの効果を悪くしてしまいます。 リンパ管はとてもやわらかいので、脂肪によってつぶされてリンパの流れが 悪くなってしまうからです。標準体重を維持することが大事です。適正な体重の目安 体重(Kg)÷{身長(m)×身長(m)}をBM Iといいます。
18以下:やせ
22前後:標準
25以上:肥満 とされています。
食事はバランスよくよくかんで食べ、適度な運動(散歩やウオーキング)をしましょう。