鼠径ヘルニアの治療法
鼠径(そけい)部(太ももの付け根の部分)には、男性では精巣を栄養する動静脈や精子を運ぶ精管,女性では子宮を固定する靭帯が、腹壁の筋肉を貫いて通っています。また、足に向かう血管や神経の通る部分もあります。鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアは、腹壁の一部が弱くなり、腸や他の組織がその弱い部分を通って突出する状態です。
腸管などが、脱出した状態で戻らなくなることを、嵌頓(かんとん)といいます。嵌頓により腸管が壊死した場合は緊急手術になるため、ヘルニアは修復しておくことをお勧めします。
以下に、鼠径ヘルニアの代表的な治療法を紹介します。
保存療法
鼠径ヘルニアは基本的に外科的治療が必要ですが、症状が軽度である場合や手術が不適切な場合には、保存療法が選択されることがあります。保存療法には以下の方法が含まれます。・腹部用サポート: 市販のヘルニアバンドを使用して、突出部分の圧力を軽減し、症状を管理します。
・生活習慣の改善: 重いものを持ち上げることを避ける、体重を管理する、便秘を予防するなど、腹部にかかる負担を減らすための生活習慣の改善が推奨されます。
外科的治療
鼠径ヘルニアの最も一般的な治療法は外科的手術です。手術には以下の方法があります。・鼠径部切開法
鼠径部切開法は、鼠径部に切開を行い、突出した組織を元の位置に戻し、筋膜の弱点を修復します。
現在はメッシュ素材を使用して補強することが一般的です。通常は腰椎麻酔で行いますが、局所麻酔で行うことも可能であり、手術リスクの高い患者さんや複数の開腹歴がある患者さんに選択されることが多いです。
・腹腔鏡手術
この方法では、腹部に小さな切開を行い、腹腔鏡と呼ばれるカメラを挿入して内部を見ながら修復を行います。
メッシュ修復が一般的に用いられます。この手術方法の利点には、回復時間が比較的短いことや、術後の痛みが少ないことが挙げられます。
腹腔鏡手術にはTEP法(Totally Extra-Peritoneal approach, 腹膜外到達法)とTAPP法(経腹的腹腔内到達法)がありますが、術者の慣れている方法が選択されます。TEP法は新たな腹壁破壊がない、腹腔内に入らないため臓器損傷のリスクが少ないことがメリットとなります。当院ではTEP法を多く行っています。
当院での手術件数と術式
2023年度 | 2024年度 | |
鼠径ヘルニア手術件数 | 121 | 120 |
腹腔鏡手術 | 57 | 62 |
TEP | 57 | 44 |
TAPP | 0 | 18 |
鼠径部切開法 | 64 | 58 |
術後管理と回復
鼠径ヘルニアの手術後、適切な術後管理が重要です。以下の点に注意する必要があります。・安静と活動制限: 手術後数日は安静に過ごし、2週間は重いものを持ち上げないようにします。
・ 痛み管理: 痛みを軽減するために、医師から処方された痛み止めを適切に使用します
・ 定期的なフォローアップ: 手術後の回復状況を確認するために、定期的に医師の診察を受けます
鼠径ヘルニアは、適切な治療によって効果的に管理できる状態です。早期に診断し、適切な治療法を選択することで、生活の質を向上させることができます。