炎症性腸疾患について
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)は、消化管に慢性的な炎症を引き起こす疾患群で、主に「潰瘍性大腸炎(UC)」と「クローン病(CD)」の2つに分類されます。これらの疾患は、寛解(症状が落ち着いた状態)と再燃(症状が悪化した状態)を繰り返すのが特徴です。
日本では、若年層を中心に患者数が増加傾向にあります。
疫学
日本国内ではUCの有病率は約150~200/10万人、CDは約50~70/10万人と報告され、有病率はいずれも増加傾向にある。発症年齢はUCでは20~30歳、CDでは10~30歳と若年成人に多いが、老年発症例も増加している。
発症要因・病因
多因子疾患であり、遺伝的素因、腸内細菌叢の異常、環境因子(食事、タバコ、ストレス)、免疫応答異常が相互に関与すると考えられている。潰瘍性大腸炎(UC)
特徴潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍が生じる疾患で、直腸から連続的に炎症が広がるのが特徴です。原因は明らかではありませんが、免疫異常や遺伝的要因、環境因子が関与していると考えられています 。
主な症状
・ 血便を伴う下痢
・ 腹痛
・発熱
・倦怠感
・体重減少
・症状の程度は個人差があり、軽度から重度までさまざまです
クローン病(CD)
特徴クローン病は、口から肛門までの消化管全体に炎症が生じる可能性がある疾患で、病変が非連続的に現れるのが特徴です。
原因は不明ですが、免疫異常や遺伝的要因、環境因子が関与していると考えられています 。
主な症状
・腹痛
・腹痛
・下痢
・血便
・発熱
・体重減少
・倦怠感
・肛門周囲の病変(痔瘻など)
・症状は炎症の部位や程度によって異なります
臨床症状の比較
症状カテゴリ | 潰瘍性大腸炎 (UC) | クローン病 (CD) |
主症状 | 粘血便、下痢 | 腹痛、下痢、体重減少 |
腹痛 | 軽度~中等度 | 強い腹痛(右下腹部) |
体重減少 | 軽度 | 中等度~高度 |
発熱 | 時にあり | 比較的多い |
全身症状 | 倦怠感 | 倦怠感、栄養失調 |
・粘血便,下痢:UCでは持続的かつ血便を繰り返すことが多い。
・腹痛,腸管狭窄症状:CDでは小腸狭窄による疝痛発作、腸閉塞症状を呈しうる。
・全身症状:発熱、体重減少、倦怠感が共通して認められる。
・腸管外合併症:関節炎、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)、眼症状(ぶどう膜炎)、原発性硬化性胆管炎など。
診断方法
IBDの診断には、以下の検査が用いられます・血液検査:炎症の有無や貧血の確認
・便検査:感染症の除外や炎症マーカーの測定
・内視鏡検査(大腸内視鏡、上部消化管内視鏡):粘膜の状態を直接観察
・画像検査(CT、MRI、小腸造影):病変の範囲や合併症の評価これらの検査結果を総合的に判断して診断が行われます。
治療法
IBDの治療は、症状のコントロールと寛解の維持を目的とします。主な治療法は以下の通りです。薬物療法
・5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤:炎症の抑制
・ステロイド:急性期の炎症抑制
・免疫調節薬(アザチオプリンなど):免疫反応の抑制
・生物学的製剤(抗TNF-α抗体など):炎症性サイトカインの阻害
・患者の症状や病状に応じて、これらの薬剤が選択されます 。
外科的治療
薬物療法で効果が不十分な場合や合併症が生じた場合には、外科的治療が検討されます。潰瘍性大腸炎では大腸全摘術が行われることがあります。
日常生活での注意点
IBD患者が日常生活で注意すべき点は以下の通りです。・バランスの取れた食事:刺激物や脂肪分の多い食事は避ける
・十分な休息と睡眠:体調管理のため
・ストレスの軽減:ストレスは症状を悪化させる可能性があります
・定期的な通院と検査:病状の把握と治療の調整また、症状が落ち着いている寛解期でも、再燃を防ぐために治療を継続することが重要です。
まとめ
炎症性腸疾患は、慢性的な炎症を特徴とする消化管の疾患で、潰瘍性大腸炎とクローン病が代表的です。症状のコントロールと寛解の維持が治療の目標であり、患者自身が病気を理解し、日常生活での注意点を守ることが重要です。
医療チームと連携しながら、適切な治療と生活習慣の改善を行い、QOL(生活の質)の向上を目指しましょう。