ステロイド外用薬の歴史
ステロイド外用薬は1952年に世界で初めて上梓され、70年以上の歴史がある治療薬です。湿疹を中心に、特にアトピー性皮膚炎では現在、子供でも大人でも、すべての治療の土台となる薬です。
しかし1992年のテレビ番組で、ステロイド外用薬の効果を取り扱わず、副作用のみ特集したキャスターがいたことで、ステロイド外用への忌避感が広がりました。
子供のアトピー性皮膚炎でステロイド外用を中断した方へのアンケートでは、副作用に対する不安感を理由に挙げる人が半分以上、と報告されています。
そこで、ステロイド外用を行わないことで起きうること、ステロイド外用により副作用が起きる可能性がある状況についてまとめます。
ステロイド外用を使用しないことで生じうる成長障害
赤ちゃんでもアトピー性皮膚炎をはじめとした湿疹になることがあります。例えばドイツでは、赤ちゃんの7〜8人の1人が、1歳までにアトピー性皮膚炎と診断されたと報告されています。
全身に湿疹があると、その赤ちゃんは、湿疹から栄養がもれる、痒くて眠れなくなる、食物アレルギーになりやすくなることが知られています。その結果、体重や身長が伸びないなどの成長障害、低タンパク血症、睡眠障害、ホルモン異常の一種である副腎不全の原因となりえます。
そしてこれらの症状は、ステロイド外用での治療を開始すると軽快することが知られています。
また、ステロイド外用に対する不安感から、良くなり切る前に家族が治療を中止した結果、成長曲線の著しい鈍化・成長ホルモン分泌不全が生じたお子さんが報告されています。
そのお子さんでは、家族へ十分にステロイド外用の必要性を説明した上で治療再開したことで、速やかにアトピー性皮膚炎は改善し、成長曲線も正常範囲へ戻りました。
つまり、アトピー性皮膚炎では無治療のままでは、時に低タンパク血症、成長障害をはじめとした全身の合併症が起きる可能性があります。
ステロイド外用の分量と全身の副作用の関係
全身性の副作用の中では、成長障害に関する検討が中心にされています。3年間に渡り0.1%ベタメタゾン吉草酸エステル外用を30g/週使用した幼児で、成長障害を認めた報告があります。
ステロイドの強さとしては、真ん中くらいの強さの薬を毎日まるまる1本使用している分量になります。
それ以外に、一番強いランクのステロイド外用薬を毎週20本週使用した人で、医原性クッシング病や急性副腎不全というホルモン異常が出やすくなったという報告があります。
しかし、皮膚科医が処方するステロイド外用薬の使用量は、これよりも少ないことが一般的です。例えば、九州大学の研究で、子どものアトピー性皮膚炎の方にどのくらいの量でステロイド外用をしていたかを調べています。その結果、6ヶ月間で使用した外用量は2歳以下で90g(18本)、2歳から12歳以下で135g(27本)だったとのことです。1日でいうと、約0.1〜0.15本です。先述した副作用を生じた量とは大きな差があります。
また、5歳以前からステロイド外用でアトピー性皮膚炎を治療してきた大人と、アトピー性皮膚炎になったことはなく、ステロイドを外用した経験が湿疹など短期間である大人で比べると、身長に差はなかったことが報告されています。
つまり、ステロイド外用薬を大量に長期間使用することで成長障害をきたす可能性はあるものの一時的で、適切に外用薬の種類や量を用いれば、大人までには成長障害は克服されると考えられます。
その他、ステロイド外用と関連する他の全身性副作用として、糖尿病がある人では、長期間ステロイド外用を行うことで血糖コントロールが不良となった例があります。骨粗鬆症には特になりやすくならないとされています。
ステロイド外用で生じうる皮膚の副作用
皮膚萎縮、血管拡張、ざ瘡・毛包炎、多毛、ウイルス(カポジ水痘様発疹症等)・細菌・真菌感染症(体部白癬等)、酒さ様皮膚炎、皮膚線条、紫斑、色素脱失、創傷治癒遷延、接触皮膚炎などが知られています。ただし、2021年の論文では、皮膚萎縮以外に関しては、ステロイド外用した人と保湿剤だけを使用した人を比べて、それぞれの副作用の起きやすさに差はなかったとされています。
また、potentランクのステロイド外用薬(ヨーロッパのランクで2番目に高いランク)で、症状が出た時のみステロイド外用するリアクティブ療法ないし、症状がなくとも週2回定期的にステロイド外用するプロアクティブ療法で治療した人たちは、ステロイド外用しなかった人たちと比べて、皮膚萎縮を含む、どの副作用も多くなかったと報告されました。
つまり、皮膚に副作用は生じうるものの、統計的(数字でしっかり差が出る)な差が確認できないレベルだったと推測されます。
実際に、九州大学の2003年の報告では、2歳以下のアトピー性皮膚炎の患者では、どの皮膚の副作用も2%未満でした。その中では、肘、膝の内側の皮膚萎縮、細菌・真菌感染が主で、その次に多毛(0.5%)がありました。より成長した13歳以上では、肘窩の皮膚萎縮は15.8%と高率になり、頰部の血管拡張も13.3%と頻度が高くなります。
多くの局所性副作用は、ステロイド外用の中止や適切な処置で回復しますが、皮膚線条はそのまま居着くとされます。幼児ではあまりないですが、13歳以上では1%でみられるそうです。特に腋・足の付け根、陰部では皮膚線条が生じやすいです。
また、体の部位によってステロイド外用薬の吸収率は大きく異なる。前腕伸側の吸収率を1とすると、特に高い部位である陰嚢は42、頬は13.0、頸部は6.0、頭部は3.5倍あります。吸収率が高い部位では皮膚の副作用が起きやすいです。
なお、ステロイド外用したところに起きる色素沈着(しみ)は、皮膚炎によって生じる炎症後色素沈着という、湿疹の後遺症です。湿疹による紅みなどが消えることで、隠されていたものが目にみえるようになるものです。このため、ステロイド外用による皮膚の副作用には含まれません。湿疹の治療後に生じる色素沈着を避けるためには、早期に治療開始し、湿疹が続いている期間を短縮する必要があります。
ステロイド外用に変わる、ないしその効果を補える新しい外用薬
タクロリムス軟膏、ホスホジエステラーゼ4阻害薬やJAK阻害薬など新しい外用薬が使用できるようになりました。こうした外用薬を治療の選択肢に加えることで、ステロイド外用薬の必要な量がへり、その結果、副作用が今以上に起きづらくなると期待できます。
日常的なケア
保湿剤、掃除などの環境整備、適切な入浴(アトピー性皮膚炎では38〜40℃の湯、石鹸の使用)などの対策は大切です。ステロイド外用をしっかり、かつ日本で公開されている治療のためのガイドラインに沿って使用することで、全身の合併症を予防することができます。
まとめ
特にアトピー性皮膚炎では、小児は大人と同じくらいに、ステロイド外用を必要としています。読み上げ音声1 ※上記テキストの読み上げ音声が再生されます。
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